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パーキンソン病の遺伝子治療
パーキンソン病に対する新たな治療法のひとつとして、研究が進められている遺伝子治療。本項では、遺伝子治療の概要や、期待される治療効果について解説します。
「遺伝子治療」とは
「遺伝子」とは、簡単に言うと、DNAの中にある体の設計図のようなものです。そして、遺伝子治療とは、体の中で不足している物質の遺伝子を、体外から補う治療方法のことを言います。
遺伝子治療は、パーキンソン病をはじめ、アルツハイマー病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患の根本的な治療・予防に繋がる、新しい手法となることが期待されています。
発症のメカニズムと遺伝子治療の仕組み
パーキンソン病の遺伝子治療は、注射によって脳の中に直接遺伝子を導入することで行われます。
そもそも、パーキンソン病の症状は、脳の中で「ドパミン」という物質が不足することによって起こります。ドパミンを作り出す「黒質」という部分の細胞が減り、うまくドパミンを合成することができなくなってしまうのです。
また、脳内でドパミンを作り出すには、TH(チロシン水酸化酵素)、GCH(グアノシン三リン酸シクロヒドレース)、AADC(芳香族アミノ酸脱炭酸酵素)という3種類の酵素が必要です。パーキンソン病が進行すると、これらの酵素のはたらきが低下し、ますますドパミンの産生量が減ることに。こうなると、症状が悪化するのはもちろん、症状を緩和するための薬(L-ドパ)もあまり効き目を示さなくなってしまいます。
そこで考案されたのが、「ドパミンの原料となる酵素を発現するための遺伝子を導入する」という治療法、すなわち遺伝子治療です。
遺伝子を注入するのは、ドパミンを作る黒質ではなく、合成されたドパミンを受け取る部位である「線条体」。既に機能が損なわれた黒質ではなく、受け取り手である線条体にドパミンを作り出す機能を追加することにより、不足しているドパミンの産生を改善しようという狙いです。
遺伝子治療の効果
2000年には、サルに対する実験で、治療の効果と安全性を確認。その後の2007~2009年に、3つの酵素のうちのひとつ「AADC」に変換される遺伝子を、パーキンソン病患者さんの脳に導入する臨床試験が行われました。
AADC単体では、ドパミンを作り出すことはできません。しかし、AADCのはたらきが十分であれば、L-ドパからドパミンを合成することは可能です。最初から3種の酵素すべてを発現させるのは難易度が高いため、まずはパーキンソン病の治療薬であるL-ドパからドパミンを作り出すことに目標を絞ったのです。
試験の結果、患者さんの運動症状スコアは、投与6ヵ月後の時点で治療前よりも46%改善しました。少し歩くのにも苦労していた状態から、元気に通勤できるほど症状が良くなった患者さんもいたといいます。
さらに、臨床試験の対象となった6人の患者さんのうち5人は、遺伝子導入から3~5年後の時点でも、運動機能の状態が維持されていることが分かりました。つまり、遺伝子治療の効果は一時的なものではなく、長期に渡って続くことが明らかになったのです。
今後の課題と可能性
今後はさらに高い治療効果を得ることを目指し、AADCに加え、THとGCHを発現する遺伝子も同時に導入するための研究が進められています。もし、遺伝子治療によって3つの酵素を継続的に発現することができるようになれば、パーキンソン病を根本から治すことも可能となるかも知れません。
しかし、遺伝子治療そのものは未だ研究途上です。パーキンソン病の治療法として積極的に推奨され、治療の現場で取り入れられているわけではありません。
また、遺伝子治療に必要となるベクター(遺伝子を体内に運ぶための入れ物のようなもの)を生産できる国内企業が限られているため、治療に際して多額の費用がかかってしまう点も課題のひとつです。今後は、さらに高い治療効果と安全性の追求はもちろんのこと、幅広い患者さんに治療を提供するための体勢の確立も必要となるでしょう。
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